早稲田の文人たち【その9】 保昌正夫【中篇】
その保昌正夫の、当然といえば当然な、もっとも大きな仕事に、『定本 横光 利一全集』全16巻(1981-87・河出書房新社)がある。
――全16巻完結の翌年には、保昌によって編まれた『横光利一全集月報集成』 (1988・同)があり、さらにその11年後に保昌の粘りによって「補巻」(1999・同) が刊行されている。よって、『定本 横光利一全集』は、現在のところ、この2巻 が加わった「全18巻」で、「完結」とされる。
――なお、さらに余談ながら、全集ものの古書価の値下がりが激しいこの節、 これらのすべて(全18巻)が揃うと、その古書価は飛躍的な金額となるから、こ の全集だけは要注意。とりわけ「補巻」は入手しがたい。
『定本 横光利一全集』は、「個人全集」としては過去に類を見ない大編纂 事業として称賛され、編集の緻密さにおいても最大級の評価を得たものである。 それゆえに、保昌は、この全集の企画・編集・校訂に、全生涯を傾けたといっ ても過言ではないと思うが、彼の仕事は、なにも「横光」ばかりではない。 急逝されたために、惜しくもその完結をみられなかった最後の仕事に、『牧野 信一全集』全6巻(2002-03・筑摩書房)や「EDI叢書」全12巻(2000-・EDI)が あるが、それ以前には、『浅見淵著作集』全3巻(1974・河出書房新社)や「講 談社文芸文庫」(文庫の会)などなど、「個人全集」や「文学全集」その他の 企画・監修・編纂に携わった仕事は数えきれないほどあって、とうていここに は列記できない。
「浅見淵」は「早稲田古本ネット」でも触れたように、保昌は早大高等学院 の教員時代に浅見と出会い、その後の保昌の「文学に向かい合う姿勢」を決定 づけた人物である。ゆえに、保昌にとって『浅見淵著作集』の編纂は当然の仕 事であったが、浅見没後10年の年に、保昌は自腹を切って『浅見淵の歌』(1984 ・河出書房新社)を「槻の木叢書」の一冊として、編み、刊行している。 この熱意、情熱は奈辺にあるのか? このあたりが、保昌を単なる文学研究者に終らせなかった「最後の文人学者」たる所以でもあるのだろう。
(以下、次回)
(2003.8.13)
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著者プロフィール 松本八郎(まつもと・はちろう)
1942年、大阪生まれ。早稲田在住40年。早稲田にて出版社EDIを主宰。忘れら れた作家たちをこつこつと掘り起こす。「EDI叢書」「サンパン」などを発行 して話題に。
「sumus」の同人でもある。
◎EDI ホームページ
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