早稲田の文人たち【その7】 野口冨士男【後篇】
この本(『私のなかの東京』)の副題に「わが文学散策」とあるように、ここ には、大正・昭和の文学史・文壇史とともに、東京の古い町並みが、今のわれわ れにも視覚的にとらえられるほどの、見事な「語り」で綴られる。 野口の仕事には、文壇史料として、前回にも記した『感触的昭和文壇史』があ り、東京の町々を背景に小説仕立てにしたものに、先の『野口冨士男自選小説全 集』にも収録の『いまの道のべに』(昭56・講談社)という作品集もある。
『いまの道のべに』は、大崎、神田、新宿、鴬谷、大塚、新橋といった、JR (当時は国電)山ノ手沿線の町々を舞台にした「私小説」である。 作者の住む高田馬場は、『私のなかの東京』と同様、最終篇に収められる。
これらの作品を通読すると、野口が昭和14(1939)年から住み着いた西早稲田 (元・戸塚町)や、早大出の文人たちが、あまり頻繁に出てこないのが、「早稲 田派」の私としてはやや不満である。
しかし、まあ、『わが荷風』(昭50・集英社)を追っかけた「三田派」なら、 これは致し方のないところかもしれない(『私のなかの東京』も、どちらかとい うと「わが荷風」の追っかけである)。
なお、『私のなかの東京』は、「中公文庫」でも1989年に刊行されているが、 いま手許にある、その約10年後に出た1998年版『中公文庫・解説目録』には、絶 版にされたのか、掲載されていない(『いまの道のべに』は、どこの「文庫」に も収められていない)。
「文壇史」や「東京散策モノ」に興味のある方には、いずれの本も必読の書で はあるが、そういう事態なので、これらの本は、早稲田古本村を一軒一軒、丹念 に探索されることをお勧めする。 (この項、了)
(2003.6.13)
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著者プロフィール 松本八郎(まつもと・はちろう)
1942年、大阪生まれ。早稲田在住40年。早稲田にて出版社EDIを主宰。忘れら れた作家たちをこつこつと掘り起こす。「EDI叢書」「サンパン」などを発行 して話題に。
「sumus」の同人でもある。
◎EDI ホームページ
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