第18回 神田川沿いの想い出(前篇) 南陀楼綾繁
現在では、ヨメの手によりバリカンで五分刈りにされている
南陀楼のアタマだが、以前は多少の苦労があった。ぼくの髪は
太くて硬いうえに、つむじがおかしな位置にあるので、七・三
にしても真ん中分けにしても収まりが悪い。10年前の免許証の
写真を見ると、えっ、こんなヘンな髪型だったっけ? と思って
しまう。
大学に入りたての頃には、モテたいとかカッコ良く(とまで
行かずとも、まあ人並みに)見られたいという色気があった。
だから、最初のうちは、整髪料を買ったり、美容室でパーマを
掛けたりと、ムダな努力もした。しかし、食費を切り詰めて本
を買っているので、あまりカネを掛けずにそこそこオシャレな
髪型にできないものか? と思うようになった。いま考えると、
なんの努力もしないのに、その発想自体が不純というか不遜で
ある。この辺からだんだん間違った方向に入り込んでいく。
そこで思い出したのが、学内の掲示板で見た貼り紙だった。
理容師の養成学校なら、1000円以下で髪を切ってくれるのだ。
……ただし、理容師のタマゴである生徒の実習としていであるが。
この時点でヤメておくべきだったが、もはやオシャレよりも
安さに目が行っているから止まらない。高田馬場の「さかえ
通り」を抜けて、神田川を渡り、西武新宿線の踏切近くにある
その学校(いま調べてみると、「東京美容専門学校」という
名前だった)に、髪を切りに出かけたのだった。大学2年の
6月のことだ。
学校の中の実習室に入ると、そこはチェーンの理髪店そっくり
な造りで、まあイイじゃんと思った。散髪だけだったら800円程度
だったが、パーマが1000円で掛けられる。とにかく安いという
事実に、つい舞い上がって、「パーマお願いします」と云って
しまった。勿論、大間違いの選択だった(ファッションに関する
ぼくの判断は、つねに間違っている)。
ハサミをにぎるのは、自分と同じか年下の、手つきの怪しい
タマゴたち。先生は横についているが、まずいところを自分で
直してくれるのでもなく、批評するだけ。「切りすぎちゃった
ね……まあイイか」。このまあイイかが、怖かった。責任とって
くれないのかよ、先生! そして、いよいよパーマである。コレ
がまたえらく時間がかかった。いくらコテを当てても、髪に
ウェーブが掛かってくれず、ベタッとしたままなのだ。髪の毛が
悪いのか、腕が悪いのか、2時間近く費やしたのではないか。
さて、出来映えであるが、どこがパーマなの? という感じで
あった(じっさい、友人にはほとんど気づいてもらえなかった。
哀しい)。打ちのめされた気になり、散髪とパーマであわせて
2000円(安いなあ)を支払った。帰り道、ドブくさい神田川の脇
を通りながら、「安物買いの銭失い」というコトバが脳裏をよぎった。
(この項つづく)
☆著者プロフィール--------------------------------------------------------
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)
1967年、出雲市生。1986-90年、早稲田大学第一文学部に在学。
現在、ライ ター・編集者。「sumus」「サンパン」「本のメルマガ」などの同人として、
本 に関するあれこれを書き散らす。
世界初(自称)の古書目録愛好フリーペーパー 「月刊モクローくん通信」を発行中。
問い合わせはメールで。kawakami@honco.net
▼日記『ナンダロウアヤシゲな日々』 http://d.hatena.ne.jp/kawasusu/
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