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古本バイト道【第10回 「危険な午前」】

■■古本バイト道■■ 第10回 濱野奈美子

 10年におよぶ古本バイト生活で、一度だけ、たった一度
だけ、大変な失敗をしています。懺悔の意味も込めて今回
はその話です。時効だといいのですが…
そう信じて書きます。関係者の方、目をつぶってくれると
嬉しいんですけど。 あ、それから食事の前とか、何か食
べながらこれ読むのはやめてくださいね。

 東京古典会の下見展覧会は、2日間です。ですが、私は
2日目には出ませんでした。すでに別の人が決まっていた
のか、私に用事があったのか、今となってはもう思い出せ
ないのですが、とにかく私は1日目だけ、ガラスケースの
カギを持って立って、お客さんが「見せてほしい」と言っ
たときに、開けて見せていました。2日目を1日空けてそ
の後2日間、入札会のほうのアルバイトには決まっていま
した。
 そして、そのアルバイトがなかった2日目の夜、私はと
んでもないことになっていたのです。その日の夜、高校時
代の友人たちと飲み会がありました。いや、ただ、飲み会
に参加してお酒飲むくらいなんてことはないんです。別に
酒豪ってわけじゃないけど、人並みに飲めますから。とこ
ろがその日は、なぜか二次会のカラオケボックスから参加
してるんですね、私。今は普通に食事できるくらい、カラ
オケボックスのフードメニューは充実していますけど、そ
の当時、というか少なくともそのカラオケボックスにはフ
ードメニューがポッキーくらいしかなかった。ところが、
二次会から参加した私は、ものすごくお腹が空いて
いたわけです。たぶん、朝から何も食べていなかったはず。
 今なら、間違いなくカラオケボックスを抜け出してコン
ビニで何か買ってくるくらいのことをすると思うのです。
しかし、そのときはまだ知らなかった、酒の怖さを。
 とりあえず、コロナビールを1本注文しました。くぅー、
空きっ腹に効きます。あっという間に飲み終えます。もう
1本注文。あぁ、なんかつまみなんていらないかも。もう
1本…もう1本…気づいたら6本目が空いていました。そ
こで突然、自分の体の異変に気づいたのです。襲ってくる
猛烈な吐き気。後はトイレとお友達…。

 さて、次の日。目覚まし時計の音でばっちり目覚めました。
洗濯機を回して、シャワーを浴びて、コーヒー沸かして、
洗濯物を干して、さわやかにバイトに出かけました。ここ
までは完璧です。しかし、電車の中の私にまた、昨日の感覚
がよみがえってきてしまったのです。
「き、気持ち悪りぃ…」
 しょうがない。途中下車です。時間には余裕があります。
すっきりしてから後続の電車に乗り込み、9時半の集合時間
にも間に合いました。

 その日は入札会です。私の仕事は、開札のお手伝いと食事
やお茶の時間のお茶汲みでした。
 東京古典会の入札&開札は、ちょっと不思議な感じでした。
コの字にテーブルが並べられていて、そこに本屋さんが並ん
で座る。その間を品物が流れていきます。といってもベルト
コンベアーがあるわけではなく、次々にお隣さんに品物を回
していくのです。その間に本屋さんは品物を見ながら入札を
して、品物はさらに流れて開札するところにくる。そこで開
札されて値段と落札者が決まる。さらにさらに流れて、開札
に間違いがないか確認されて(札改めといいます)、値段と
落札者が発表されて(発声といいます)、そして、テーブル
の最後のところに並んで座っている私とKのところまで流れ
着きます。私とKが、品物と札とを一緒にビニール袋に入れ
て口をセロテープで留めると、それをまた本屋さんがどこか
へ運んでいくという感じでした。…いや、だったような気が
する。断言できないのは、私は東京古典会の大市の開札には、
後にも先にもこの一回しか出ていないからであり、しかも、
この時、ものすっごい二日酔いだったからです。
 
 席についてしばらくは平気でした。仕事もばっちりしてい
ます。でも、吐き気というのは急にやってくるのです。まる
でドラマでよくあるつわりのシーンのように、「うっ」と席
を立ってトイレに駆け込む。そして、すっかり落ち着いてま
たしばらく何事もなかったように仕事に専念する。するとま
た突然、
「うっ」っとくる。すっかり落ち着いて…何回繰り返したで
しょう…とにかく、こんなことを何回か繰り返して、やっと
お昼頃、私は本当の平静を取り戻したのでした。上品なちら
し寿司のお弁当を食べたらすっかり元気になって、午後は至
ってまじめに働きました。

 関係各位の皆様、本当にごめんなさい。

 ちなみに飲み会の日、帰り道では自転車と共に階段落ちと
いう荒技もこなしています。その記憶までばっちりあるのが、
いいのやら悪いのやら…。


☆著者プロフィール------------------------------------------------

濱野奈美子(はまの・なみこ)
フリーライター。長い古本バイト経験を生かして『アミューズ』の古本特集や
『古本 神田神保町ガイド』(共に毎日新聞社)などで活躍する。本業のライ
ターでは古本だけではなく、サッカー、食べ物なども。なんでも来い。
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2004年10月25日

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