■■古本バイト道■■ 第6回 濱野奈美子
穴八幡の古本まつりが終わる頃、またある本屋さんがやってきて言いました。
「今度、神田で古本まつりがあるんだけどバイトできない?」
神田…神田の古本まつり…その言葉は忘れられないイヤな思い出として私の頭
にインプットされています。私がまだ田舎のウブな女子高生だった頃の話です。
10月下旬のとある日曜日、私と友人の宏美はある計画を持って電車に乗ってい
ました。みなさんは今はなき爆風スランプの「週間東京少女A」という名曲を
ご存知でしょうか? いきなり話が飛ぶようで恐縮ですけども。
「週間東京少女A オリーブ決めて 黄色い電車で 週に一度の東京?」って、
つまり東京近郊の田舎の女の子ががんばっておしゃれして東京行って、ほっぺた
が火を噴くような市外局番は教えられないとか、私の靴には泥が付いてるとか、
ま、そういうことをおもしろおかしく言ってる歌です。で、それが結構、当時の
私たちにはツボでした。観たいライブがあれば東京へ行き、ラフォーレのバーゲン
初日は学校休んで並ぶ(私はしたことはありませんけど)。今の子だったら
「下妻物語」ですね(読んでないけど)。
何の話かというと、その日それが「神田の古本まつりに行こう」という、
とっても渋い目的だったということです。もちろんオリーブは決めてません。
ただ、東京には神田という本屋さんがいっぱい並んでいる街があって、そこで
祭が行われているというそのことが、私をわくわくさせたのでした。宏美は
古本には興味がないので、たぶん私に無理矢理連れて行かれたのだと思います。
で、カンのいい方ならもうお解りかもしれませんが、私たちはその日、
ついに「神田の古書店街」には辿り着けませんでした。神田…です、神田。
当然、神田の駅を目指したのでした。しかし、日曜日の神田駅周辺に祭の
にぎわいはありません。閑散としていました。歩けども歩けどもそれらしい
ものは見当たらない。そして、田舎の高校生である私たちは道を聞くことすら
恥ずかしくてできなかったのです。だから、かろうじて開いていたちっこい
ラーメン屋さんでラーメンを食べ、ブルーな気持ちのまま、また電車に乗って
すごすごと退散したのでした。
家に帰ってきてから調べてみると「神田の古書店街」は神田ではなく神保町
というところにあり、神田とはちっとも近くない上に、なんと地下鉄で行くの
でした。しかも、その駅はライブで何度も通っている「大きなタマネギ」武道館
がある九段下のひとつ隣の駅であると知った、その時の私の落胆を想像できる
でしょうか?
そんなことがあったので、私は東京に出てきてからも決して「神田の古書店街」
には足を向けようとはしませんでした。ま、さすがに社会人になってからは
九段下に就職しましたし、年中行ってはいたのですが、それでもまだ「神田の
古本まつり」という言葉は、私の胸をチクリと刺すのでした。
そして、話は最初にもどります。
「今度、神田で古本まつりがあるんだけどバイトできない?」
「神田…神田ですか……やります!」
…なんなんですかね?
東ニ一新会ノ大市アレバ
行ツテヌキヲシテヤリ
西ニ穴八ノ祭ガアレバ
行ツテソノ本ノ束ヲ売リ
南ニ神田ノ祭ガアレバ
行ツテイラッシャイマセトイヒ…みたいな。
しかし、それにしてもよく次々に仕事がやってきたものです。
☆著者プロフィール------------------------------------------------
濱野奈美子(はまの・なみこ)
フリーライター。長い古本バイト経験を生かして『アミューズ』の古本特集や
『古本 神田神保町ガイド』(共に毎日新聞社)などで活躍する。本業のライ
ターでは古本だけではなく、サッカー、食べ物なども。なんでも来い。
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