MENU

最近のコラム
過去のコラム(月別)

早稲田で読む早稲田で飲む【第6回】

第6回 青空古本祭の18年 南陀楼綾繁

10月1日朝10時、快晴。早稲田リーガロイヤル前のバス停から、急いで穴八幡
に向かう。急げ、急げ。珍しく初日の朝にやってきたんだから。穴八幡の前まで
来ると、すでに境内の階段下にある文庫コーナーにヒトが群がっているのが見え
る。息せき切らせて、飛び込んだ。小野忠重『版画 見かた・作りかた』(現代
教養文庫)150円を手はじめに、福田蘭童『志賀直哉先生の台所』(旺文社文庫)
が200円、中公文庫では、泉鏡花『薄紅梅』と岡野弘彦『折口信夫の晩年』が200円、
川端康成『高原』が150円、折口春洋『鵠が音』中公文庫が100円と、すいすい
抜いてしまった。

 いったん会計を終えて、石段を上って本殿のある境内へ。いつも思うのだが、
平日の朝10時に、どこからこんなにヒトが集まるのだ。一回りして、矢部登
『結城信一抄』(紫陽社)300円、藤枝静男『落第免状』(講談社)400円、
木本至『医の時代 高松凌雲の生涯』(マルジュ社)500円などを見つける。
田辺茂一『茂助の昨今』(角川書店)が、函コワレ本だけど400円。どれも格別
に珍しい本ではないけれど、この値段で買えたら幸せという本ばかり。この世に
一冊しかない稀覯書を掘り出すよりも、コッチのほうが、なんか早稲田の古本祭
らしい収穫だという気がする。

 途中で、「sumus」の同人仲間の岡崎武志さんや荻原魚雷さんと会ったので、
喫茶店に行って雑談し、また戻ってきて、何冊か買う。そうこうしているウチに、
もう仕事場に出る時間だ。穴八幡から早大正門に続く南門通りを歩き、右側の
「公洋軒」という定食屋に入る。この店には大学生のころから何度か入っている
が、店の様子はそのときから変わってない。店の老夫婦は昔は中年だったと思
うが、学生にとってはじゅうぶんに老夫婦だった。(ヘンな表現だけど)。今日
の定食はチキンカツ。味噌汁とごはん、漬け物。チキンカツにはキャベツ。多
すぎず少なすぎず、昼飯としては丁度良い。あとから、一人で飯を食いに来た
おじさんが座る。「チキンカツ」。次のおじさんも、また次のおじさんも。チ
キンカツ定食しかこの世にないみたいで、オモシロかった。

 ぼくが大学に入ったのは、18年前。つまり、青空古本祭がはじまった年に入学
したのだ。その年の秋の第一回には、もちろん行った。翌年もその翌年も。文庫
の10円均一コーナー(復活してほしい!)があって、そこで一気に50冊ぐらい買
った。手に食い込む重さに耐えながら、西荻窪の下宿まで運んだものだ。それか
ら18年。行かなかった年もあるけれど、つかず離れず、この古本祭と付き合って
きた。いつも同じような雰囲気で、何かしらちょっとした本が見つかる。いつも
の定食屋のように。

18年という数字は、もうひとつの理由から感慨深い。今年ぼくは36歳になり、
生れて育った家を離れるまでの年月と、東京で暮らしてきた年月がちょうど同じ
18年になったのだ。田舎から出てきた人間にとって、コレはとても大きいことで
す。なにか、ひとつの区切りがついたようで。では、次の18年間はどんな風にな
るのだろうか。ぼくにとって、青空古本祭にとって。そして、「公洋軒」も代替
わりするなどして続いているとイイのだが(老夫婦が平然とやってたりして……)。

☆著者プロフィール--------------------------------------------------------
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)
1967年、出雲市生。1986-90年、早稲田大学第一文学部に在学。
現在、ライ ター・編集者。「sumus」「サンパン」「本のメルマガ」などの同人として、
本 に関するあれこれを書き散らす。
世界初(自称)の古書目録愛好フリーペーパー 「月刊モクローくん通信」を発行中。
問い合わせはメールで。kawakami@honco.net
----------------------------------------------------------------------

2004年09月06日

トラックバック: