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目まいのする古本相談室 第4回

■■目まいのする古本相談室 第4回■■ 浅生ハルミン

tomohiroさま(35歳男性)

Q かなり前より浅生ハルミンさんの文章を拝読しております。
なんとも言えない不思議な文章にすっかりファンになって
おります。そこで、相談というより質問ですみませんが
浅生さんの好きな本はどのあたりなのか、理由と共に教えて
いただけないでしょうか。妻も最近、本に興味があるよう
なので、浅生さんの好きな本でも薦めてみようと思って
いるのです。よろしくお願いいたします。


A 古本や古道具……総じて古いものを私が好きだと誰かの口伝え
で知った親戚の叔父さんは、久しぶりに帰省した私に「古いもの
好きやったらこれあげよか」と言ってひいおばあちゃんの代から
使っていた脱殼機と鎗を持ってきてくれたのでした。お気持ちは
ありがたいのですがそこまで大きいものはちょっと…。

 このように、ひとに私の好みの傾向がうまく伝わることは稀。
また、自分の傾向を説明することは自分で自分自身を解剖する
みたいな気持ちになったりもしてなんだかつらいナー。
本のたのしみは読むことだけでなく、それを手にしたときの状況、
手触り、めくり具合、挿画や装丁、本文組、紙とインクの相性など
もありますが、それを言ったとき相手の反応が薄いことが多いから、
どんな本が好きかというとき、まずは繰り返し読む本を考えます。

 もっか私が何回も読み返している本といえは詩人・平出隆の小説
『猫の客』です。これは去年の暮れに恵文社で作られた「心に残る
古本との出会い」というテーマの冊子に書いたときから変わりません。
ページをめくるごとに、主人公夫婦の家に通ってくる隣家の猫の仕種
やからだつきや発見が、選びぬかれた言葉によってあらわされている
のですが、猫の記述がなかなか出てこないとなんだかさびしい気持ち
になってくるし、それは小説の中の、家に猫が姿を見せない日の夫婦
の気持ちと重なります。古い民家と小さな庭とそこに繁った雑木と、
塀の向こうの町内と、少し離れたところにある新しいアパートという
地理もまた、現実の一匹の猫の活動範囲をなぞっているようにも思えます。

 読み終わりたくないーっていくら思ったってページをめくれば時は
進み、それは実際に猫を飼う人が、いつかいなくなってしまうことを
わかっていながら猫と一緒にすごすこととも重なり合います。もはや
この本を読むこと自体が猫と過ごすことに他ならないのです。この本
が猫なのです。本はそのような時間と空間を閉じ込めた箱のようでも
あり、ページをめくれば幾度も繰り返して猫の行方に思いをめぐらす
ことができるのです。

 さてさて、あとは読みたいものがいくらでもでてくるはず。『葉書で
ドナルド・エヴァンズに』(作品社 2001年発行)を読めばドナルド・
エヴァンズの切手を見たくなって『銀花』の別冊の手紙特集(文化出版局
1984年発行)を探しに古本屋さんをまわってしまうし、『みずゑ』の
ジョセフ・コーネル特集(美術出版社1990年発行)では平出隆もまた
箱形のオブジェを作っていたことがわかるし、ユリイカのバックナンバー
をぱらぱら見てたら若き日の平出隆の肖像写真を発見して「ユリイカとっと
いてよかった…」と一人ごちたり、なにかとたいへんなのです。ちなみに
『猫の客』と『葉書でドナルド・エヴァンズに』は新刊書店でもまだ買う
ことができます。


☆著者プロフィール----------------------------------------------
浅生ハルミン(あさお・はるみん)
イラストレーター。『彷書月刊』にて「ハルミン&ナリコの読書クラブ」を
連載中。『modern juice』にも毎号寄稿。その他数々の雑誌にイラストや
コラムを寄稿。本の装丁も手がける。
集めた古本を販売する「ハルミン古書センター」も次々と支店が。

ハートランド(西荻窪)http://www.heartland-books.com/
古書上々堂(三鷹)〒181-0013 三鷹市下連雀4-17-5 TEL 0422-46-2393
古書現世(早稲田)http://www.w-furuhon.net/
上記古書店でハルミンセレクトの古本を販売中。
「ご来店お待ちしております あさお」
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2004年08月31日

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