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早稲田で読む早稲田で飲む【第4回】

第4回 「マイルストーン」で隠遁する  南陀楼綾繁


早稲田の古書店街は、明治通りに出る手前で終る。その先に古本屋はない
(以前は教育書の「ヤマノヰ書店」があったが、1980年代末に現在の場所に移転
した【注】)。あるのは、安い食堂や映画館、そして「タイム」「レコファン」をは
じめとする中古レコード屋だ。

古本屋巡りを終えて、まだナンとなく物足らないという気分になると、ぼくはそ
れらの店に入って、ジャズのレコードを漁った。1990年代に入ると、もう完全に
LPからCDに切り替わっていたのだが、ジャズだけはあくまでもLPで聴くの
が「気分」だった。じつは自室にはプレイヤーを持ってない時期が長くて、綺麗
なジャケットを眺めて楽しむほうが多かったのだが。

 レコード袋を抱えて、戸塚第二小学校(駅そばにある壁画がある小学校)の先
を左に曲がる。坂を上がって早稲田ゼミを過ぎたところの角に、「マイルストー
ン」というジャズ喫茶がある。いまはどうだか知らないが、当時「ジャズ喫茶」
というと、薄暗い穴蔵のような店内に深刻な顔をした青年が座り、音に聴き入っ
ている場所というイメージがあった。もちろん私語は禁止、リクエストのひとつ
もできなきゃ、という雰囲気がまだかろうじて残っていた(吉祥寺の「メグ」は
その筆頭だった)。高田馬場には早稲田通り沿いの地下に、「イントロ」という
ジャズ喫茶もあるが、そこはかなりの「穴蔵」型だった(もう一軒、「MoZZ」と
いう店もあったが行ったことはない。今年6月に閉店したそうだ)。
一人の客がほとんどという点では、「マイルストーン」も同じだったが、ココは
店の造りが開放的だった。壁際に沿うようにいくつかの椅子が置かれ、真ん中に
は大きなテーブルがあった。間にまったく仕切りがないので、気分が圧迫されな
い。それに道に面しているので外の光も差し込んでいる。1970年代半ばにできた
ためか、60年代からある「穴蔵」型ジャズ喫茶とは違う雰囲気を持っていた。

もうひとつ特徴的だったのは、大きな本棚があってそこにぎっしりとマンガが詰
まっていたこと。それも読み捨てのマンガを適当に入れているのではなく、手
塚・藤子から高野文子、大友克洋まで、マンガ好きなら「おっ」と思うようなセ
レクションだった。単行本だけじゃなくて、マイナーな雑誌(たとえば「コミッ
クばく」)のバックナンバーも揃っていたのではないか。そこでマンガを読み
コーヒーを飲んで、ジャズを聴いているだけで、優雅な時間を過ごせた。レコー
ドのリクエストしてみたかったが、どうすればいいか判らず、掛かる曲を漫然と
聴くだけだった。

学生時代は喫茶店に使うカネがもったいなくて、数回しか来なかったが、出版社
のアルバイトとして早大の図書館に通うようになると、じつによくこの店に来
た。調べものを適当に切り上げ、会社に戻るまでの時間をココでつぶすのだ。社
会に復帰するまでの、ちょっとした隠遁。「穴蔵」型のジャズ喫茶だとそのまま
沈没してしまいそうだが、「マイルストーン」ならドアを開けて現実に戻れる。

つい先日、久しぶりに「マイルストーン」に行ってみた。場所は同じだけど、整
然とテーブルが配置され、普通のレストランっぽい。客もカップルや友達同士が
多い。マスターに聞いてみると、7、8年前に改装したとのこと。いや、変われ
ば変わるもんだ。もっともコッチも、友達の古本屋さん3人を引き連れて、わい
わいビールを飲んだりピザを食べたりしているんだから、お互いさまか。

ぼくの座った右側はつくり付けの棚になっている。前ほどの量ではないが、マン
ガも健在だった。レコード棚に挿してあるLPを眺めているうちに、なじみのあ
るタイトルが目に付いた。ジョン・ルイス、パーシー・ヒースらによる『グラン
ド・エンカウンター』。草の上に寝転ぶ女性のジャケットが懐かしい。それを抜
き出して、マスターに「リクエストお願いします」と頼む。緊張せずに自然に云
えた。ちょっとは大人になったのかな。

【注】数年前には高田馬場駅の反対側(早稲田予備校の近く)に、「ブックス
アルト」という古本屋さんもできた。また、「ブックオフ」も二軒できている。


☆著者プロフィール--------------------------------------------------------
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)
1967年、出雲市生。1986-90年、早稲田大学第一文学部に在学。
現在、ライ ター・編集者。「sumus」「サンパン」「本のメルマガ」などの同人として、
本 に関するあれこれを書き散らす。
世界初(自称)の古書目録愛好フリーペーパー 「月刊モクローくん通信」を発行中。
問い合わせはメールで。kawakami@honco.net
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2004年08月25日

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