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古本バイト道【第3回 「ドナドナ」のように連れられて】

■■古本バイト道■■ 第3回 濱野奈美子

今回は、前回の続きです。

「書店さんごとにこの紙は1枚ずつ。ここに書店名、ここに封筒に
書いてある番号と書名と値段を書いて。『何本』って書いてあるの
は忘れずに写すこと。書き終わった封筒は、この四角い枠の中に
チェックして、ここに入れて…」

という指示には、まだ、ナゾのままの言葉が残っています。
「『何本』って書いてあるのは忘れずに写すこと」の、『何本』
です。

 市場に並ぶ本は、1冊ずつってわけじゃありません。○○全集とか、
雑誌のバックナンバーとか、何十冊、時には何百冊が一括で出品され
ます。また、1冊ずつじゃごくごく安い商品を何冊かまとめることに
よって、値段のつく商品にすることもあります。これを、「一括で
何本にまとめましたよ」というのが『本口』です。普通の本を30冊
ぐらいで縛ったもの、これを「ボー」と呼びます。「棒」です(ちな
みに大判の本は重くなってしまうので短く縛ります。その様から
「団子」と呼ばれます)。なので一縛りを「一本」と呼びます。
ですから30冊ある全集を10冊づつ縛ると「○○全集 3本口」
になるというわけです。 本屋さんは、ヌキを見ながら自分が落札
した商品を引き取っていくので、ヌキにこの本口が書いていないと、
引き取るときにまちがいが起こりやすいのです。3本口なのに2本
だけ持ち帰ってしまうという事もおきかねません。だから、本口は
必ず書き写さないといけないのです。

 せっかくなのでついでに説明しとくと、「この四角い枠の中にチェ
ックして」というのは、書き写した封筒に、終わった印のチェックを
するってことです。このチェックがあるものは「終わったもの」とし
て処理されます。これでたぶん、最初にまったく意味不明だった言葉
がちゃんと意味のある言葉になったと思います。

 私自身も、やっと仕事の要領が飲み込めたのは、目の前にミスター
ドーナツの箱がいくつもぼんぼんと積まれる頃になってからです。
つまり、おやつの時間くらいになってから。フレンチクルーラーを
ぽそぽそと食べて、でっかいやかんから注がれる激しく濃い緑茶を
すすり、なんとなく所在ない感じでまた仕事に戻りました。すると
そこに、顔に怪しい笑みをたたえた、若いんだか年とってんのかわ
かんない感じ人が現れました。

「10月1日から6日までアナハチできる人いない?」

 また暗号です。今度はアナハチ。ヌキだの、アナハチだの、まっ
たく油断のならないところです。私のスケジュールはもちろんガラ
ッガラに空いてますが、とにかく「アナハチ」を解明しないことに
は、どんなヘンなところに連れていかれるかわかったもんじゃあり
ません。

「なんですか? アナハチって」

 つい聞いてしまいました。あぁ聞いてしまいましたとも。
 振り返れば、「古本バイト道」を意味もわからずひた走っていく、
若き日の自分が見えます。いや、ひた走ると言うよりも、蟻地獄の巣
に落ちていくとか、排水溝にどぶどぶと飲み込まれていくという表現
のほうが、よりぴったりとくる感じです。

 ご存知の通り「アナハチ」は「穴八幡宮」のことです。「早稲田古
本村通信」に連載して3回目でやっと早稲田のことが出てきました。
つまり、この早稲田の虹書店さんは、早稲田青空古本祭のバイトを
探しに来たのでした。しかも、聞けば自分のところのバイトではな
く、五十嵐書店さんのバイトだという。ま、当時の私には、そんな
違いがわかるはずもないのですけれども。

 そんなわけで、次回は穴八です。

ヌキについての補足トリビア
新古書会館になってからヌキの仕事は廃止されて、すべてコンピュータ
がやってくれています。今は、ボールペンでゴリゴリ書く代わりに、落
札金額を入力するようになっています。

 ちなみに…
大市のおやつは相変わらずミスタードーナツだったりします。先日、
資料会の大市の手伝いに行ったらやっぱりミスドでした。バカでか
いやかんはずっと前になくなっちゃいましたけど。


☆著者プロフィール------------------------------------------------

濱野奈美子(はまの・なみこ)
フリーライター。長い古本バイト経験を生かして『アミューズ』の古本特集や
『古本 神田神保町ガイド』(共に毎日新聞社)などで活躍する。本業のライ
ターでは古本だけではなく、サッカー、食べ物なども。なんでも来い。
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2004年08月23日

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