■■ヨーコの高田馬場ふらふら日記(2)■■ 高田葉子
新聞の折り込み広告で、気になるものは、とりあえず、とっておくほうです。
たとえば、資産家の御曹子と結婚できたり、つぶれかけた小料理屋が大繁昌し
て次々とお金が舞い込む、「風水・五鯉躍サイフ」や、リストラ寸前の夫が重
役に大出世した「神秘のイエロートルマリンブレス」などなど。
このチラシコレクションのなかに、“パリになった高田馬場”という見出し
が踊る、「ル・シュヴァール新聞」も仲間入りしたのでした。なんでも、“正
統派フレンチ、カジュアル・イタリアン、パティスリ−と3つの店鋪フロアか
らなる、美食・コミュニケーションスペース”が、馬場に誕生したらしいので
す。
青年部長向井くんから、「元ソーブン堂書店だったところに、こ洒落た店(
食い物や?)が出来た」とツーホーを受け、駆け付けてみると、案の上、この、
“馬場のパリ”のお店でした。 ほんの数十メートル先の松屋で、きのうの夕
飯を済ませてしまった人間が、こんなところに足を踏み入れていいのかしらと
おびえてしまうほど、立派なビルが建っていました。店の前には、胡蝶蘭の鉢
植えがずらーっと並び、大きなショーウインドウからは、お菓子づくりのよう
すがみえます。
勇気をだして一階のケーキの店へ。喫茶スペースがあるも、がらがらです。
ステンレスぴかぴかの内装や、明るすぎる照明が落ち着きません。なによりも、
早稲田通りを行き交う学生と酔っぱらいたちの「どうしちゃったの、この店は
…。」という冷ややかな視線に耐えかね、おいとましようとショーケースをみ
ると、おいしそう。値段もやや高めですが、思っていた程でもなく、まずはシ
ュークリーム1コ(250円)を買いました。たった1コなのに、箱に入れ、紙
袋まで用意してもらい、なんだかすまないなあと思ったので、ニ階のイタリア
料理店「フラットリア」をのぞいてみることにしました。
足を踏み入れるやいなや、ボーイが、「お品物、冷蔵庫でお預かりしましょ
う。」と寄ってきました。さすがに、「シュークリーム1コしかはいってない
んです。」とは言えず、ことわりました。2800円、3800円のコースが用意さ
れていましたが、一人で松屋に入れても、一人でコースを食べるのは、さすが
に自分が可哀相におもえ、「単品でもよいですか。」と蚊の泣くような声で尋
ねると、あっさりOKだったので、「海老とルッコラのトマトソースパスタ」を
たのみました。
まわりをみると、仕事帰りのOL二人組、学生カップル、という、ごく平均的
な客層で、ほっとしました。チラシには、「森のなかで食事をしているような
気分になれる」とありましたが、森とはいわないまでも、テーブルがなかなか
うまいこと配置してあって、居心地は悪くありません。一人掛けの席でも、街
路樹や、吹抜けからそびえるツリーのイルミネーションが、窓越しに最もきれ
いに見えるよう設計されていて、おもわず馬場にいることを忘れてしまいそう
になりました。(ただし、視線をほんの少し下げると、「着物と帯 佐藤」&
「レコード買入タイム」の看板アリ。)
海老がプリプリでおいしかったなーと、料理に満足しながら店をでようとす
ると、こんどは、馬柄のネクタイをした紳士がすーっとやってきて、「御要望
がございましたら、なんなりとお申し付けくださいませ。」とおっしゃります。
「3階のフレンチをごちそうしてください。」と喉元まででかかりました。だ
ってね、「豚足、とさか、アヴォカドをしのばせた有機トマト、キュリーソー
ス」とか、「新鮮な海の幸のプラトー、ブルターニュの日々!」とかいうメニ
ューがあるんですよ。しかも、「NYのフィフス・アベニューにあるダイニング
を訪れたような気分」(チラシより)になれるんですって。キャー。
と、興奮さめやらぬまま道路を渡り、マツキヨでホッカイロ貼るタイプ10コ
入り198円を買った帰り、ふと、向かいにある件のビルをみあげると、両隣り
から、真っ赤な「カルビ先生」と真っ黄色の「カラオケ歌広場」のネオンが降
り注いでいて、なんだかお口直しのデザートのようにおもえたのでした。やっ
ぱり、こっちのほうが安らぐんだな。この街では。
☆著者プロフィール----------------------------------------------------
高田葉子
都内某新刊書店勤務。家賃更新7回めに突入でもまだまだ住みたい…。
【高田葉子 今月の気になる一冊】
『いろは』創刊号…ネット古書店くらげしょりん市川さん編集の愛らしい雑誌。
店では古書コーナーよりも、生活書コーナーで、ものすごく売れています。
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