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早稲田の文人たち【その1】

早稲田の文人たち【その1】 浅見淵

『東京都近代文学博物館』って、知ってますか?
 この『文学博物館』、時々なかなかいい展覧会をやっていたのに、ついにアノ石原慎太郎の一声でこの3月に閉館の憂き目に。 
 慎太郎って、本職は「小説家」ってのは皆さんご存じですよね。
 国会議員になれたのも、東京都知事になれたのも、この「小説家」だったおかげ。
 その彼の、先輩作家たちの業績を後世に伝えようと、文学都市・東京ならではの発想のもとに作られた『文学博物館』を、「財政難」を理由に、いとも簡単に切り捨てたのが、この「小説家」にして「都知事」の、慎太郎なのである。

 切り捨てるなら、財政逼迫のもととなった、アノ悪名高い丹下某設計の、アノ醜悪なバブルの塔を売っぱらえばいいものを。と思うのだけれど、銀座に軍隊を繰り出して戦車の上から都民を睥睨して喜んでいる輩には、言っても通じないか……。
 ――それにしても、いくら平和ボケした都民(日本人)に向けて、と言ったって、戦車で脅かすことはないだろう。

 いかん。どんどん話がずれていく。本題に戻す。

 で、その石原都知事を、まず「小説家」として発掘したのが、「早稲田の人」、浅見淵(あさみ・ふかし 1899-1973)であった。
 ――浅見淵をご存じなければ、今すぐ「早稲田古書店街」に足を運んでください。ご当地出身の文人・文学者の書物は、「早稲田古書店街」では切らすことなく常備しております。


 彼の著作のうち、文学研究や文学史に関するものとして、

  『現代作家研究』(昭11・砂子屋書房)
  『現代作家論』(昭13・赤塚書房)
  『現代作家卅人論』(昭15・竹村書店)
  『昭和の作家たち』(昭32・弘文堂)
  『昭和文壇側面史』(昭43・講談社)
  『史伝 早稲田文学』(昭49・新潮社)
があり、小説集に、
  『目醒時計』(昭13・赤塚書房)
  『無国籍の女』(昭14・赤塚書房)
  『手風琴』(昭17・小学館)
  『青い頭』(昭21・日本出版社)
があり、随筆集に、
  『市井集』(昭13・砂子屋書房)  
  『文学と大陸』(昭17・図書研究社)
  『蒙古の雲雀』(昭18・赤塚書房)
がある。その他「小説・随筆集」に、 
  『燈下頬杖』(昭45・校倉書房)
などがあるが、常備しているからといって、さすがに戦前・戦中のものは、いつもあるとはかぎらないからご用心。その場合は、
  『浅見淵著作集』全3巻(昭49・河出書房新社)
  第1巻「評論」、第2巻「文壇史」、第3巻「小説・随筆」
という格好の著作集があって、これはまだ比較的、手に入れやすい。しかし、『史伝 早稲田文学』はそれと同時期に刊行されたりしているので、上の単行本のすべてが、この『著作集』に収録されているわけではない。念の為。

ふたたび話を戻して。

 慎太郎の処女作「灰色の教室」を、『文学界』の「同人雑誌評」で激賞したのが、この浅見淵で、そのおかげで慎太郎は、翌年、「太陽の季節」で「文学界新人賞」を得、「芥川賞」も受賞することになる。 
 言ってみれば、作家・石原慎太郎誕生の最大の功労者が、浅見淵なのである(慎太郎自身も、そのことは『太陽の季節』の「後記」でも謝し、『浅見淵著作集』第1巻「月報」でも触れている)。
 
 浅見淵を「早稲田の人」といったが、彼は神戸から出てきて早稲田大学に学んだ人。
 在学中から「早稲田派」といわれる文芸同人誌のいくつかと関わり、また自らも同人誌を創刊。1935年には早大時代の同級生・山崎剛平の出版社「砂子屋書房」の創業に立ち会い、太宰治の『晩年』のほか、尾崎一雄の『暢気眼鏡』(第5回芥川賞受賞)など早稲田派作家の作品出版を企画する。また、39年には第三次『早稲田文学』の編集に関わり、中絶したが『史伝早稲田文学』は、戦後の1949年から『早稲田文学』に連載したものである。

 ところで、1949年といえば、浅見淵は、この年から早大高等学院の教諭として勤務している。 
  『浅見淵著作集』の編集に関わり、この『著作集』で「解題」をしている保昌正夫(1925- )は、横光利一研究の第一人者であり、最後の文人学者ともいわれるが、彼もまた、早大を卒業後、早大高等学院の教諭となる。そしてこの時、彼は先輩でもある同僚の浅見淵から、近代文学研究における多大な学恩を受けることになる。
 その薫陶よろしく、保昌正夫はその後、武蔵野美術大学、相模女子大学、立正大学の教授を歴任して後進の指導にあたり、そのかたわら、日本近代文学館、神奈川近代文学館の常務理事を務め、さらには、『東京都近代文学博物館』の閉館に抗することになる最後の運営協議会会長(実質的な最高責任者)であった。

 ということで、みたび話を慎太郎に戻せば、彼は『東京都近代文学博物館』を閉鎖することで、生みの親でもあり、恩義ある師、浅見淵を「裏切った」ということになる。
 近・現代文学史に大きな功績を残した浅見淵ではあるが、今もし彼がこの世に在りせば、この仁義なき為政者、文化破壊者を、生み、のさばらせてしまったことに、慚愧耐えがたく、大いに後悔しているにちがいない。
(2002.4.25.)

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著者プロフィール 松本八郎(まつもと・はちろう)
1942年、大阪生まれ。早稲田在住40年。早稲田にて出版社EDIを主宰。忘れら れた作家たちをこつこつと掘り起こす。「EDI叢書」「サンパン」などを発行 して話題に。
「sumus」の同人でもある。
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2004年08月02日

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