―きっかけ― 久保木 秀直
きっかけは大切だ。
6月に行われたW杯は近年で最も大きなきっかけであった、と僕は思う。とにかくエネルギーが凄かったのだ。 流行に敏感な若者だけでなく、YOUNGパパ・ママ、子供たち、サッカーを知らないおじいちゃん、おばちゃんまで日本国中、W杯に夢中になった。上手く言葉にできないが、“本物のFEVER体験しちゃいました!”というような、なんかそんな感じではなかっただろうか。これをきっかけに、きっとたくさんの子供がサッカーに憧れを抱いたのだと思う。“みんなで、同じ夢を追う。”そんな体験に、日本人は国中でシビレてしまったのかもしれない。
小学生の頃、僕はTVッ子だった。TVの中で起こる様々な出来事に一喜一憂していたのだ。中でも最も僕をワクワクさせたのは、ザ・ドリフタ−ズの志村けんさんと、巨人軍の原辰徳さんだった。
今思うと、僕が、今現在役者を続けているきっかけはここにある。あの当時、僕は間違いなく彼らに元気をもらっていたのだ。子供の頃、彼らを見るとうれしかった。「志村」に笑いを、「原」にホームランを期待し、彼らがそれに応えると、僕の中で彼らはスターとなって、憧れになった。そしていつからか“自分も彼らのように人に何かを与えられる存在(=スター)になりたい”と強く、漠然としつつも、割と強く思うようになっていたのだ。今となると、その思いは、いつも僕のどっかをしっかり支えている。そして、その思いを、いつまでも忘れないでいようと僕は最近、思うのだ。
19歳の時、早稲田大学に入学した。これが自分が役者になったきっかけである。それまでTVや、映画の中でしか見たことのなかった“役者”という人達が、この早稲田という所にはワンサカいた。「原辰徳」と「志村けん」に憧れて以来、漠然と、「スターになりたいなぁ」と思っていた青年を、早稲田は笑顔で包み込み、僕はいともたやすく役者になった。
そうなんです。早稲田は、「役者になるきっかけ」を掴む場所として、日本中で、最も簡単な場所であるといえるんです。
早稲田大学には、今も100とも200ともいわれる小劇団が存在する。役者の活躍する場は非常に多い。そして、“演劇”という共通点の下、制作、照明、舞台美術など、各地から様々な思いと夢を持った若者が集まってくるのだ。そういった環境の中、周りを認めさせ、皆から一歩抜け出した団体のみがプロになっていくのである。早稲田は、“学生演劇の聖地”なのだ。
一方、そんな早稲田にあっても、演劇に関わっていない人々にとって、“演劇を観るきっかけ”は非常に少ないのではないかと思う。私達の国には“観劇をする”という習慣があまりないということもあり、「どうやって一般の人達に観に来てもらうか?」というこの問題は演劇をやっている人にとっては、非常に大きな問題であるといえる。
しかし、早稲田という場所は、一般の人々の“演劇を観るきっかけ”が、実は、日本一多い場所だともいえるのだ。早稲田の街の店では殆どの場所で公演間近の劇団のチラシが手に入るし、早稲田大学にいけば、各劇団が競い合うようにして書いた、次回公演のおっきな立て看板が壮観だ。入場料だって¥0〜¥2500くらいまでと破格に安い。劇場は、お世辞にも環境がいいとはいえないが、いつも得体の知れないエネルギーに溢れている。気持ちさえあればこんなに“演劇を観るきっかけ”を得るのに適した場所はないのではないかと思う。そして、なんといっても早稲田には明日の演劇界を担う、若い力がゴロゴロしているのだ。サッカーは、「選手は、サポーターに育てられる」らしいが、お客さんの前で直に演じる演劇こそ、「役者はお客さんに育てられる」に違いないものなのである。役者はいろいろな人に観てもらい、それを感じることで成長していくものであると思う。また、いい役者、劇団を見つけ出し、その成長を見守る、というような事も楽しみやすいのが早稲田である。きっかけさえ掴めば、友達が出演していなくても、有名人が出ていなくても、お好みの演劇がきっとみつかるはず。それが早稲田という場所なのだ。
このコラムの終わりには毎回、お薦めの舞台というものを掲載してもらえる予定です。演劇に興味のある人は、ここらでひとつ、僕の提案するこの“きっかけ”に乗ってみるというのはいかがでしょう。
(2002.8.8)
☆著者プロフィール---------------------------------------------------

久保木 秀直(くぼき ひでなお)
S.52年 茨城県生まれ、千葉県育ち。早大在学中、早稲田大学演劇倶楽部に所属。演劇を始める。innerchild,INSTANTwife,ロニーロケットなどの公演に参加。
98年、CMディレクターでもある演出家、塩田泰造のユニット“JALOPY”に初参加。以後現在に至るまで、ほとんどの塩田作品に出演。2000年より、歌と踊りと芝居の融合をコンセプトにしたバンド、霞町楽団の立ち上げに参加。霞町楽団のボーカル 兼演出・構成・振り付けなどを担当。バンドでの名前は「まろ」。ここ数年の目標は、「日本一の芝居を打つこと!」その為毎年正月には、初詣に行って、お祈りするのが習慣。 現在はフリーで活動中。
★所属劇団『大人の麦茶』ホームページ
http://www.otomugi.com/
-------------------------------------------------------------------