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特集1 古本屋さんからの挨拶状プラス1

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古本共和国 第6号('91)
『あのドロドロの中にどれだけの「良書」があるか』 五十嵐 智 (五十嵐書店)

私達の商売、今後の見通しは決して明るくないかもしれませんが、こういう仕事がなくなるとは考えていません。

何十年も前に出版された本で、未だに読まれる良書がたくさんあります。古い本だからあちこちに散逸している。それをどうしても読みたいという人たちのために探すことが、私たちの仕事の一つです。骨の折れる仕事ですが、誰かがやらなくちゃならない仕事です。

業務は細かくなってきます。大企業なんかは入り込めない分野です。デパートで売っていないのは墓石と古書ですが最近は墓石は売っています。だから、“喰いぱっぐれ”はないともいえます。

本来、古本屋の使命はよい本を取捨選択して売ることです。持ち込まれてきた本を吟味して選り分ける。生かすも殺すも本屋次第です。ということは、つまり本に対して責任があります。

今、本は古本屋に行かず、古紙回収業を経て、製紙工場へいく。あとはただのドロドロです。実にもったいない話です。あれを一旦、古本屋を通して生かすべき本を引き上げ、甦らせてあげてほしいものです。ただ、せっかく良書を生かしてきても、最近の学生さんは読んでくれない。それがもっと大きな問題です。私の息子も早稲田の法学部にお世話になっていました、サークルのほうばかりやっていて、本当に本を読まなかった。

時間を見つけて古本屋をもっと訪ねてほしいですね。買うことは後回しでいいですから、まず話をしにきてほしい。本を買うというのは、スーパーで品物を買うのとだいぶ違います。探している本がなかなか見つからない、何を読めばいいのかわからない、そういう時、古本屋と昵懇であれ、必ずメリットがあります。

*窪田空穂の未発表日記を入手私の店は学術書、専門書が多いので、著名作家などがよく見えます。共産党の不破委員長などは本好きのようでよく歩いておられるようです。委員長という忙しい立場になってもしばしば見かけるし、歴史の本をよく買われます。

数年前の話ですが、早稲田大学の先覚で著名な窪田空穂先生の未発表の日記が市場に出てたまたま私の手元にも一部入った。私が藤平春雄先生に自筆かどうか調べてもらおうと電話しましたら、病気上がりの先生でしたが、すぐに飛んでこられて正しく自筆であることを保証され、私の入手路を聞き、早速御子息の窪田章一郎先生(早稲田大学名誉教授)に取り次ぎ、大騒ぎになりました。

市場に出回ったものを回収する仕事を引き受け、手元に戻るまで数ヶ月かかりましたが無事決着。この一件は数種の雑誌にその顛末が載っています。

この件にしても、私と藤平先生とのつながりがあったかこそ、無事決着がついたもので、そのつながりがなかったら全集にも載っていない近代文学史上の大切な日記がどうなったか。日記を手にした持ち主は何人かの先生がお願いに上がっても、また他の同業者が向かっても拒否していたのですが、私との特別な関係があり持ち主(青木書店・青木正美氏)の特別の配慮があって折れていただけたのです。

*希望だって大いにあります以前は早大生ということで分割払いとか、代金は出世払いというときもありました。でも最近は本当に昔のような学生との「いい関係」は希薄になりました。

売上が減少しているのは事実ですが、それには大きく二つの理由があると思います。ひとつは乗り物です。二十年位前まで早稲田通りを歩いていた学生の数、はそれはすごいものでした。小さな子供がとおりに出ると危なくてしょうがないくらいでした。それが今、地下をもぐり車道の下を飛んでいってしまう。

もう一つは本に対する執着がぜんぜん違ってきていることです。昔の学生がよく地下鉄工事のアルバイトをやった大変危険で保証もないきつい仕事ですが賃金が高かったからです。大仰にいえば生命を賭けたそのお金でほしい本を買ったのです。それほど本を読むことへの意欲・欲求が高かった。

さらに商売停滞の理由を加えるならコピーの普及も大きいし、スポーツが盛んになったことなども影響があると思います。

といっても、希望は大いにあります。高田馬場BIG BOXで、靴や、衣料のセールなどいろいろな催事をやっています。あれで売上が一番 高いのは実は古書市なんです。ここ数年穴八幡神社で開催している「早稲田青空古本祭」も大好評です。こうした催事を足掛りに、さら に新しいイベントを試みながら、できる限り多くの皆さんの要望にこたえ、早稲田古書街全体が活性化するように努力していきたいと思 います。まあ、なんにしても、早稲田の先生方、学生さんたちとは「いい関係」をつくっていきたい。そう考えています。

古本共和国 第6号('91)

2004年07月21日

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